「天職一芸~あの日のPoem 346」

今日の「天職人」は、三重県伊賀市上野愛宕町の「じょうせん飴職人」。(平成21年11月18日毎日新聞掲載)

伊賀の飴屋のおっちゃんは きっと忍者に違いない 琥珀色した海鼠(なまこ)飴 折って延ばして白うした こないに硬い飴やのに なしてあないにおっちゃんは グニャリグニャリと飴を引く じょうせん飴の忍び技

三重県伊賀市上野愛宕町で昭和22(1947)年創業の、伊賀名物じょうせん飴の森内栄甘堂えいかんどう。二代目主の森内啓司さんを訪ねた。

「なんや、今は割ってないんか?」。老人は寂しげにぼそりとつぶやいた。

「今しは衛生的やないゆうてな。20年ほど前までは、お客さんが来てから割って、目方で売らしてもうてましたんやが」。啓司さんが、済まなさそうな顔で老人を見つめた。

「目の前でかち割ってもうた、あの歪なとこがええんやけどなあ」。老人は口惜しそうに店を後にした。

啓司さんは昭和24年、4人兄妹の末子として誕生。

工業高校を出ると津市の内装工事会社に勤務。

しかしわずか1年後、父から家業を継ぐよう命ぜられた。

「兄が4年ほど継いどったのに、急に大学へ進学したいと言い出しよって」。

それからは父と共に、家業のいろはを学んだ。

「じょうせん飴の始まりは、戦国時代の文献にも残っとんやさ。伊賀の忍者が飴売りに化けて、太鼓鳴らして子らを集め、諜報活動しながら諸国を売り歩いとったんやに。語源は伝来の地『朝鮮』が訛ったもんらしいて、四国の高松では、『ぎょうせん飴』って呼んどるそうや。まあ、昔ながらの無添加の素朴な飴ですに。作り方のこつは、飴の塊を落さんように引っ張って延ばすだけのこと。それさえ出来りゃあええんやで、半年もしたら一人前でしたわ」。

昭和53年、知人の紹介で秀代さんと結ばれ、二女を授かった。

「飴だけやのうて、饅頭や押し物の落雁。それから丁稚羊羹やカステラと、時代が豊になるに連れ、だんだん商品も増えて大忙しやったもんやさ」。

じょうせん飴は、芋や穀物の澱粉に麦もやしを混ぜ、123℃で炊き上げ、半日煮て琥珀色に色付く、麦芽水飴作りに始まる。

そして銅の器に入れ、水に浮かせ飴の温度を70~80℃まで下げる。

次に竹の皮を敷いた木製容器に移し、小麦澱粉の浮粉を塗しながら手に取り上げる。

作業場の柱に据え付けた、横棒を桛車(かせくるま)の軸に見立て、棒状に延ばした飴を放り投げ、横棒で折り返し両手で手前に引き伸ばす。

そして琥珀色から白色に変わるまで、飴が冷えぬうちに素早く飴引きを繰り返す。

写真は参考

「毛糸の(かせ)()りと同じように、空気を飴の中へ取り込むんやさ」。

後は一口大に切り、浮粉で塗せば1度に1貫目(3.75㎏)の、戦国時代の味と伝わるじょうせん飴が完成。

「普通一般的な飴ゆうたら、90%が砂糖なんやさ。100%砂糖にすると、夏場に砂糖の結晶になってしまいますやろ。それに引き換え家のじょうせん飴は、100%が麦芽水飴で、砂糖は一切つこてません。麦もやしと澱粉を炊くことで、澱粉糖化作用が起きて、自然とあも(甘く)なって麦芽独特の風味も出ますんやに」。

(はな)って引いてまた放つ。

伊賀の飴引き職人は、(いにしえ)人の手仕事の味を、今も頑なに守り抜く。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「天職一芸~あの日のPoem 346」」への4件のフィードバック

  1. 伊賀の忍者が飴売りに化けて…
    昔 時代劇でそんな場面がありましたね。
    この飴は きっと自然の甘さだから 最後まで噛まずに食べ終われるかも⁈
    私はいつも のど飴を口に入れてても途中で必ず噛んじゃうから(笑)
    効き目半分になっちゃう( ◠‿◠ )
    それにしても ” 丁稚羊羹” 気になる〜

    1. 伊賀には特徴的な物が色々ありますよ。
      今ほど交通網が発達していなかった昔は、山深い盆地でしたでしょうから、独自の風習や食文化も残ったのでしょうねぇ。

  2. 素朴な味が伝わって来ます。そう言えば最近、無縁になってるなぁ、素朴さ(¯―¯٥)

    1. やっぱりキャンディーよりも、飴ちゃんですよねぇ。
      黄金糖なんて、なかなか買って貰えなかった気がしますけど。

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