今日の「天職人」は、岐阜県関市の「熊鍋屋主人」。(平成20年2月5日毎日新聞掲載)
鉄砲担ぎ爺ちゃんは 熊笹分けて森へ入る 冬空高く輪を描(か)いて 鳶(とび)がヒュルリと声上げた 銃の響きに森が泣き 「熊仕留めた」と声上がる 村の男が獲物引く 山肉森の贈り物
岐阜県関市、熊鍋屋の「とろろ庵四季」。主人の上杉藤雅さんを訪ねた。

「熊の胆(い)は値千金やで、金の値段と同じなんやて。だから猟師は熊の胆売ったら、後の肉はおまけみたいなもんやわ」。藤雅さんは、囲炉裏の炭火を熾(おこ)しながらこっそり笑った。

藤雅さんは昭和18(1943)年、同県旧石徹白(いとしろ)村(現、郡上市)の樵(きこり)の長男として誕生。
中学を出ると上京し、浅草の大衆食堂で板前見習いを始めた。
二年後には中華料理店へと移籍し、静岡県出身の小浪さんと巡り合い結婚。やがて二女に恵まれた。
「実家がダム建設で上流に孤立するんで、福井県の大野市に移転してラーメン屋やることになって。東京から夫婦で引っ越して来たんやって。そんでもいかんわ。雪が多いで年の半分は店閉めて商売上がったりやて」。
三年後に関市へと移転し、中華料理店を開業した。
平成4(1992)年、子供たちの独立を機に、中華から熊鍋屋へ。
「昔から山肉やとろろ芋が好きやってなぁ。親父も鉄砲撃ちやって、ウサギや雉(きじ)、それにイノシシに鹿や熊の四足もよう仕留めて来たんやわ。子供の手も離れたで、猟師に教わって昔から好きだった熊や山肉なぶったろかって思ったんやて」。

子育て後の人生に備え、昭和52(1977)年には銃砲所持許可証と狩猟許可証を取得し、地元の猟師仲間と山へと分け入った。
自慢の熊鍋は熊のロースやバラ肉に、季節の野菜や茸を加え地味噌でほっこりと炊き上げる、滋味溢れる山の恵みだ。
「熊の手のひらを触ると、肉が柔らかいか硬いか直ぐにわかるんやて。何でもそうやけど、歳くって捻て来ると臭みが出て肉も硬なってまうで」。

熊鍋の旬は、身も凍りつくような真冬とか。
シンシンと降り積もる雪の夜の調べに抱かれ、囲炉裏で湯気を上げる熊鍋に舌鼓を打てば、体も芯から暖まる。
「熊はどっこも捨てるとこなんて無い。脂は傷口に磨り込めばよう効くし、胆は心臓病にも効くとか言うし。山肉はすべて、山の神から山の民への贈り物なんやって」。
藤雅さんは今なお、3年に一度銃砲所持許可証を書き換え、毎年狩猟許可証を得て仲間と共に、散弾銃のレミントンを担いで山をゆく。
「熊は近眼なんやって。だから15~20mほどしか見えんのやわ。そんでもその代りに嗅覚はめちゃくちゃ鋭く、体のわりに憶病なんやて。だからこっちが静かにしとれば、熊から襲って来ることは無い。よう鈴鳴らして山を歩けば、熊が怖がって近寄らんとか言うけど、逆に熊を興奮させてまう。それに春は子を守っとるで、気い付けんとやっぱり怖いわ」。
大きな物は体長2m、体重150kgを超えるとか。

古民家風の窓から厳寒の夜空へと、鍋から湯気が立ち上がり笑い声が零れ出した。
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中華から熊鍋屋… 物凄い方向転換( ◠‿◠ )
まぁ料理店というのは同じだし ただ食材や調理方法が変わっただけなんでしょうけど なんだか迫力があるような。
すっぽん鍋を一度、馬刺しを一度 食べた事があるぐらいで まだ未体験の食べ物は数多く。
いつも思うけど 最初に”食べよう”とトライした人って 凄すぎる〜。
原型を知ってしまうと中々手が出ません!
しかし馬刺しは好きですねぇ!
特に青森のロケの晩にご馳走になった、二戸だったか三戸だったかの、馬肉専門のお肉屋さんの奥にある料理屋でいただいた、冷凍されていない生の馬刺しは、もう最高でした!
嗚呼!もう一度味わいたいものです。
こんにちは。
・熊鍋屋主人のお話ですね。
・熊鍋屋が、有るのですね。
熊の肝は、高額になるのですね。
私は、知りませんでした。勉強になりました。
・私は、熊鍋を、食べた事が有りません。
・熊の肉,鹿の肉,猪の肉(ジビエ)を、食べた事が、有りません。
うん~~⤴
スッポン!先日、少しだけ食べました。
チョット文章力がないあたしには説明が出来ません!
いつ会えるか?分かりませんが
今度・・お会いして時に、話します。
一つだけ言えるとしたら・・
うん⤵⤵正直!
美味しくって仕方がないとは言い切れないです。
因みに吸血鬼でもあるまいに
「生き血」は飲んでません!
ぼくもスッポンも苦手ですねぇ。
二度ほどスッポン料理にお連れいただいたことがありましたが、・・・。
撃沈でした!
ましてや生き血の赤ワインは!!!
く、熊鍋!そんなものが存在してたなんて~!
長野の大鹿村の温泉宿の取材で、「熊肉チャーハン」ってぇのがありました。
さすがにぼくは怖気づきましたが、同行した女性記者は「美味しい!」となんの衒いも無く召し上がっておられたものです。