今日の「天職人」は、岐阜県高山市の「手燭(てしょく)職人」。(平成十九年六月十二日毎日新聞掲載)
稲妻落ちた停電で 辺り一面闇の中 母は慌てて手探りで 蝋燭見つけ火を燈す 小さな灯かり寄り添えば 父は毎度の十八番 障子に映る影狐 団扇に揺らぐ暑い夜
岐阜県高山市、銅工房滝村。手燭職人の滝村幸次さんを訪ねた。

囲炉裏端。
熾(お)きの残り火と、和蝋燭に燈(とも)し出される柔らかな明かり。
テレビもラジオも無かった静かな時代。
炎に揺れる影を見つめ、網戸越しに虫の音を聞きながら、更け行く夏の夜を見送った。
「蝋燭の火がゆらゆら揺れて、柔らかな灯かりに包まれると、そんだけで何や落ち着くもんや。普段セカセカしとるもんで余計にそう感じるんさね」。幸次さんは、少年のような満面の笑みを向けた。愛妻の冨士枝さんも、これまた夫に劣らぬ笑顔を添える。

幸次さんは昭和二十二(1947)年、靴職人の家の五人兄弟の末子として誕生。
中学を出ると板金屋の見習い修業へ。
「まわりから職人になった方がええぞって言われたもんで」。
屋根、壁、樋(とい)の建築板金を学んだ。
一通り技術も身に着いた三年後、金沢の板金屋へ。
「賃金も良かったし、都会へ出てみたかったんやさ。でも名古屋や東京は好きじゃなかったでのう」。
車庫の二階に住み込み、板金の腕を磨いた。
再び三年後の二十一歳の年、母が病床に伏し高山へと帰郷。
昭和四十三(1968)年、高度経済成長期の真っ只中、板金職人として独立した。「もう腕も一端やったし、人に使われるのは面白ないで」。
とは言え、弱冠二十一歳の若造。老獪(ろうかい)な職人の世界では、まだまだ雛同然だった。
「何か特徴的なことせんと、何時まで経っても舐められるで」。
そんなある日。春日灯籠から漏れる、蝋燭の何とも優しい明かりに目を奪われた。
「奈良へ出かけて行ったりしては、釣り灯籠とかを独学で勉強し初めたんやさ」。
知り合いの金具職人を訪ねては、その技を真似て銅細工に応用した。

やがて灯籠から燭台、手燭、懐中燭台、香皿へと、作品の域を拡大。


「まあ得手は灯籠と、この通称ブラブラって呼んどる自在手燭やさ」。

自在手燭とは、昔ながらの手燭の応用版。
蝋燭の倒れ止めを付けた燭台は、柄と一体の外枠と、柄と切り離した内枠に燭台を鋲(びょう)で固定したものだ。
だから廊下を持ち歩こうが、燭台は常に水平を保つ。
柄は最大九十度曲がり、鴨居に掛けることもできる。
「やっぱり手燭には、和蝋燭の赤じゃねぇと面白くねぇんさ」。
燻(いぶ)し出された銅の手燭と、和蝋燭表面の赤が何とも対照的だ。
独立から三年。
二十四歳の年に冨士枝さんと結ばれ、二男をもうけた。
「左官職人の紹介でさ、そんでもってイチコロやさ」。
手燭はまず、銅のフラットバーを曲げてコの字に加工。
コの字の外枠と内枠を銅の鋲でかしめて溶接。
次に銅板をいも槌(金槌)で叩いて皿を作り、コの字の内枠に鋲でかしめる。
皿の中央には銅の丸棒を叩き出した心棒をかしめ、薬品で燻し上げグラスウールで磨けば完成。
「わしゃあもう、何時逝ってもええんやて。わしが生きた証に『幸』の字の刻印打ったるで。子供らもそれ見たら、親父の作品やってわかるでな」。

そう言って職人は妻を見つめた。
和灯かりに負けるとも劣らぬ、満面の笑みを浮かべながら。
*この取材後、幾度となく高山を訪れる度、「幸次君、冨士枝ちゃん」と呼びつつ、酒を酌み交わすほどの友人となりました。今は残念ながら、コロナの影響でなかなか逢えなくて残念な限りです。
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「天職一芸〜あの日のpoem 236」
「手燭職人」
心惹かれますね。
オカダさんのブログにも登場したことがあるような桜の花の和蝋燭たてと葉っばの形をした香皿と素敵な作品ばかりですね。
見てくれはいかつい職人ですが、心根はとっても優しく、奥様思いの職人さんですから、作品にもそんな心根が宿るものかも知れません。
相変わらず!
「匠の技」ってのは凄いです!
今からでも、何か?
あたしにも出来る事ないかなぁ~?と考えたけど・・
根気がないもんなぁ~⤴
しかし!
美熟女絡みなら頑張れるぅぅ⤴
流石!あ・た・し!!
ぜひ、美熟女の皆様の、美容と健康に寄与する手仕事を見つけてくださいな!
今晩は。
・手燭(てしょく)職人のお話ですね。
・赤い手燭蝋燭(ろうそく)綺麗ですね。
・手燭は、手作りなのですね。
『手燭』なんだかお洒落ですね!
最後の写真の作品は 玄関に飾りたいです。
まだまだ知らない職業があるんですよね。普段 目にしてるの気付かない。
ブログを通して いろんな事に気付かされる毎日です。
オカダさんのマイブームじゃないけど 何かにのめり込みたい気分のわたくし夢ちゃんです。( ◠‿◠ )
手蜀に灯る和蝋燭の和灯りは、眺めているだけで心落ち着きますよ!