「天職一芸~あの日のPoem 214」

今日の「天職人」は、名古屋市中村区椿町の「庭石屋」。(平成十八年十二月十二日毎日新聞掲載)

紅葉浮かべた蹲(つくばい)に カンと一打ち獅子脅し  木洩れ日さえも眩しげな 小さな庭を染める苔      父の自慢は侘びと寂び ネコの額の庭弄(いじ)り    赤味を帯びた庭石に 遥か故郷の山を見る

名古屋駅西口の目と鼻の先。

高層ビルに埋もれるように、ここが地表だと言わんばかりに、古びた庭石や雨に打たれて風合いの出た、石灯篭が立ち並ぶ庭石屋。

名古屋市中村区椿町、昭和始めに創業した石義庭石店、三代目店主の金岩幸三さんを訪ねた。

写真は参考

「まあ、時代遅れと言うだか。お爺さんとらあが造った庭を壊してまって、駐車場にしてまうんだで。庭を造って風情を愉しむなんてもう無いわなあ。そりゃあ庭木は育てば姿形も変わってくけどが、石じゃあ備え付けたらそのまんまで変化もなあんもあれせんでかん。だいたい売る本人がそんなもんだで、買いに来る人なんてあらせんわ。まあ休業しとるようなもんだて。せいぜい年に一人か二人だわさ」。 幸三さんは一気に捲(まく)し立てた。

幸三さんは昭和五(1930)年に、四人兄弟の三男として誕生。

だがその三年後に父が他界し、やがて戦争の激化で止む無く休業へ。

終戦を翌年に控えた昭和十九(1944)年、勤労学徒として名古屋造船の工場で作業中、クレーンのレールで誤って右手の五指を切断。

「そんなもん戦時中だで、まともな治療なんて出来いへんて」。利き腕の手首から先を失った。

その後は日増しに空襲が激化。

「だけど石屋の商品は丈夫いって。焼夷弾受けて石は割れても、燃えへんでなぁ」。一面を焦土と化した駅裏にあって、石置き場は被害を免れた。

だが終戦と同時に闇市が建ち並び、石置き場の石の上で店開きするものも現われる始末。

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「だいてゃあこんなでっかい石、そうそう動かせんで誰あれも持ってけえせんけどなぁ」。

父の元で修業を続けていた母の弟が、やがて二代目を継ぎ義父となった。

幸三さんは石置き場の片隅に店を構え、玩具屋を創業。

写真は参考

「そんなもんどえらけない人だかりだもん。明道町で仕入れた玩具を、店先に置いときゃあ売れてってまったんだで」。

その後、昭和三十(1955)年に、旧清洲町出身の郁子さんを妻に迎え、一男二女を授かった。

時代は東京五輪を契機に高度経済成長期へとまっしぐら。

昭和四十二(1967)年、義父が他界。

「それからだわさ。わしが見よう見真似で、玩具屋の片手間に石屋を継いだんわ」。

四国、揖斐、天竜、高野山と、天下に名だたる名石。

「だいてゃあ原価はただみたいなもんだで、値段なんて滅相。みいんな人件費や運搬費だけだって。そんでも餌代いらんだけが取り柄だわさ」。

形と色、何十万年という気の遠くなる年月を費やし、大自然の彫刻家が刻み込んだ石相。

それぞれに表情が異なり、どれ一つとして同じ形など何処にも無い。

「まあ庭を見て愉しむ人も、庭自体も減ってまったで。庭に気のある人じゃないと、庭石の良さなんてわっかあへんって」。

幸三さんは五年前に玩具屋を廃業。

今は気楽な隠居の身。

庭石を見初める人の訪れを、今日も気長に待ち続ける。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「天職一芸~あの日のPoem 214」」への3件のフィードバック

  1. 庭石…見かけませんね〜
    旅館のお庭か古くから続く豪邸のお庭か。
    近所に 砂を販売してるお店?はあるんですけどね(笑)
    京都の庭園を見てまわる…なんていいですよね⁈ 今からの時期最高ですよ!
    秋の庭園を見ながら 只々癒されたり 時には自問自答したり。
    素敵だろうなぁ〜( ◠‿◠ )

    1. 独り禅問答は、心をニュートラルにするための魔法ですよね。
      そこに美しい庭園があれば、より心が浄化するかも知れませんものね。

  2. 今晩は。
    ・庭石屋のお話です。
    ・写真の庭石色々な種類が、有りますね。
    ・庭石の販売のお店が有りますね。

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