今日の「天職人」は、三重県津市の「茄子団扇(なすびうちわ)職人」。(平成十七年十二月六日毎日新聞掲載)
湯浴みの後の酔い覚まし 盥の西瓜プカプカリ 蚊取り線香燻(くゆ)らせて 茄子団扇で戯(たわむ)れる 濡れた黒髪束ね結い 浴衣姿で横座り 君が団扇を煽(あお)るたび 仄かにシャボン薫り立つ
三重県津市の賀来商店。二代目の茄子団扇職人、賀来智子さんを訪ねた。

「この前も主人と二人で、扇面(せんめん)に貼る伊勢和紙を探しに行ったり、柄の先に取り付ける伊賀の組紐を見に出かけたり」。智子さんは、いきなり惚気(のろけ)出した。
智子さんは昭和三十六(1961)年に名古屋で誕生。
短大を出ると、デザイン関係の仕事に就いた。
二十七歳を迎えた年、津市出身の母の知り合いから、見合い話が持ち込まれた。そのお相手が、夫の隆さん。
見合いを終えた帰り際、仲介人が智子さんに言った。「今度貰いにいくから。それと式は○月○日ね。もう私、この日しか空いてないから」。有無を言わさぬ強引さに両家は押し切られ、平成二(1990)年に賀来家へと嫁入り。
賀来商店は明治二十四(1891)年の創業。空襲で工場が焼けるまでは、マッチ箱の経木製造を専門とした。
その後は時代の変遷に業態を転じ、広告宣伝用品の卸へと。
「父が六十歳を過ぎた頃やったろか。商工会で、津の土産物は、菓子の他に何かないやろかとなってさ。江戸時代から続いとったのに、昭和四十(1965)年頃に途絶えた茄子団扇を、復元しようってことんなって。団扇メーカーに頼んでも、手間やで相手にしてくれやん。そんならしゃあないって、自分が作ることに」。 隆さんは、壁に掛けられた父の遺作を見やった。
とは言え全くの素人。茄子団扇を剥(は)いでは分解し、構造を調べる日々が続いた。
「材料探して何度も京都に出かけて。今思たらそれも父の愉しみやったんやろかなあ」。
見よう見まねで始めた団扇作りも、足掛け十年を数えた。その二年前には智子さんが嫁ぎ、長女も誕生。家業を隆さんに託し、やっとこれで団扇作りに没頭出きると思った半年後、癌を発病。
五年間で六回に及ぶ手術を繰り返し、生死の狭間を彷徨い続けた。
「亡くなる三ヶ月前に、義父が団扇作りの手解きを始めて」。完全に引き継げないまま、先代は平成九(1997)年に他界。茄子団扇もこれで終わったと、誰もが感じた。
「たまに電話があったんです。『茄子団扇ありますか?』って。『ええ…まあ・・・』と。慌てて義父の遺した作り掛けを仕上げたほど。二年程は騙し騙しでした」。
茄子団扇の特徴は、扇面に柄を挿し込む形状のため、炭を熾(おこ)す激しい煽ぎ方には不向き。
優雅に上品に、ゆっくりと煽がねばならない。
作業はまず、杉の柄に鎌穴を開け焼き目を入れる。鎌と呼ぶ太目の竹籤(ひご)の両端を削り、蒸気を当て半円状に。続いて扇面を模(かたど)る極細の竹骨を均等に広げ、付け根を要紙(かなめし)で補強。
次に四十五~四十七本の竹骨を、木綿糸で編み込みながら糸掛け。そして扇面に伊勢和紙を貼って漆を塗り、周りに飛び出した骨を截(た)ち、周囲に縁紙を貼って完了。
気も遠退く細かな作業の全てを、智子さんただ独りでこなす。

「精々、年に三十~四十本かなあ」。智子さんが夫を見つめた。
「休みに夫婦で紙探しに行ったり。結構愉しいもんやさ」。
十七世紀初頭に溯る茄子団扇の歴史。
消えかけた伝統の灯は、秋茄子を食わすなとまで惜しまれた、か細い嫁の手と、それを支える夫の優しさで守り抜かれていた。
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おはようございます。扇子は長良川花火大会の時に岐阜駅で配ってくれた扇子を何年も使い続けてますがそれを片手に見る花火大会が今年は開催されないとは寂しいものです。もし今年東京オリンピックが開催されていたら少なくとも今日までは凌ぎやすい大会だったのにと悔やむばかりです。
なるほどなるほど!
「処替れば、品替わる」色々な〜団扇があるんですね。昔々、骨組みだけになった団扇に広告を貼ったり、画用紙に絵を書いて貼ったりして使いましたよ。
なんとなんと、素晴らしいリサイクルじゃない!それって!
おはようございます。
・茄子団扇(なすびうちわ)職人のお話ですね。
・茄子団扇は、職人さんの手作りなのですね。骨が竹で伊勢和紙を、貼って作るのですね。手間がかかりますね。
・私は、茄子団扇は、デパート等見た事が、有りません。
お値段が高そうですね。
贈答用なのかな?
・茄子団扇を、あおぐと涼しいのかな?
・写真の茄子団扇可愛いデザインですね。団扇に紐がついてますね。何か意味が有るのでしょうか?
一言に団扇と言っても、色んな種類があるのですね。
和が似合う⤴️そんな女にうちは(団扇)なりたい、なンちゃって(^_-)
ここんとこ、立て続けにいい線いってますねぇ!
こりゃ座布団が足りないかも!
ああ、落ち武者く~ん!なごやンさんに座布団一枚!
茄子団扇 これまたお初!
写真を見ると フワ〜っと大きくてはんなりした風が舞う感じが…。
子供達が幼い頃 夏の寝苦しい夜に 寝ている横に座って よく団扇で扇いでました。ゆ〜っくり大きく…
この団扇なら そんな時にぴったり( ◠‿◠ )
手で扇ぐ風は、とてもとてもそりゃあ心地良い物です。
子供の頃の夏休みは、町内の誰かが家の前で花火
それに、便乗して、悪ガキ共が集まる!
花火をしながら団扇で仰ぎながら、サイダーを「プッハァ~⤴」
子供の頃はそれで十分楽しかった!
あの純粋で無垢だった、ハナ垂れモもっち!
アァ~あの日に帰りたい!
花火は子どもの頃唯一、親公認の夜遊びだったですよねぇ。
あっ、それと盆踊りも!