「天職一芸~あの日のPoem 111」

今日の「天職人」は、三重県桑名市多度町の「和菓子職人」。(平成十六年十月九日毎日新聞掲載)

四季を彩る和菓子の華が 菓子器の中に咲き誇る      晴の日祝うお茶請けは 松竹梅に鶴と亀          両親の脇和服の君が ぼくの言葉に伏し目がち       「嫁に下さい」震う声 後は野となれ山となれ

三重県桑名市、多度大社の参道脇にある、和菓子の丸繁、七代目和菓子職人の蒔田(まいた)美喜代さんを訪ねた。

流鏑馬(やぶさめ)で賑う多度大社の参道脇。折からの雨が、多度の杜(もり)を洗い清めるようだ。雨乞いの神として知られる社に、木陰に宿る鳥の鳴き声がこだました。山門前を通り過ぎる、農具を積んだ軽トラック。山門に差し掛かると、運転手の農夫はハンドルを切りながら、頭(こうべ)を垂れて行き過ぎた。

「ここらに住んどる者らは、みな車で通りながらも、ああして頭下げてくんさ」。美喜代さんが店先から山門を見つめた。

もともと丸繁は、旧街道の宮川で江戸末期頃に創業され、五代目の時代に大社前へと移転した。代々当主の名には、「繁」の一字が受け継がれる。

しかし六代目は、男子に恵まれず、長女の美喜代さんが家業を継いだ。

短大を卒業すると、名古屋の和菓子屋で、当時女性としては珍しい製造部門へと、住み込みで勤務。男性中心であった菓子職人の世界に飛び込んだ。 「若かったから、怖いもん知らずやさ。あの人らの方が、気遣こてたんと違うやろか」。

幼い頃から両親の仕事振りを間近に見て育った分だけ、菓子作りの飲み込みは早い。和菓子細工に欠かせぬ、細い竹の箸も、使い勝手を良くするため、自らの手で削った。 「細工の飾りをキュッと摘んで、ヨイショッと載せるんやさ」。

四季折々の歳時記に応じ、縁起物から季節を愛でる品まで、甘味をまとった日本の四季が、一口大に仕上げられる。

一年半の住み込み修業を終え、多度へと帰省。両親と共に、参拝客相手の和菓子作りに精を出した。

二十四歳の年に銀行員の夫に嫁ぎ、桑名市内に新居を構えた。とは言え、実家の家業を放ってもおけず、通いで手伝いながら、妊娠・出産・子育てに追われた。 女和菓子職人は、妻として、母として、娘としての、四つの顔を使い分けながら、来る日も来る日も多度へと通い続けた。

「ある人に『毎日、子供ら連れて帰って来るんやったら、ここで暮らしたらええやんか』って、言われて。それもそやなあって」。三年前に、再び蒔田姓へと。

半世紀近く前、先代は雨乞いの神を讃え、最中「雨(あま)ごひ笠(がさ)」を発売。今尚、当時の製法を美喜代さんがしっかと受け継ぐ。

軒を伝う秋の長雨も、雨ごひ笠のご利益か。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「天職一芸~あの日のPoem 111」」への13件のフィードバック

  1. おはようございます。
    和菓子職人のお話ですね。 多度大社の近くの和菓子屋さんですね。

    ・蒔田さん お仕事も子育ても頑張ったのですね。 和菓子屋さんの修行頑張ったのですね。

    ・(写真)雨こび笠美味しそうですね。最中の中身は、つぶあんかこしあんが入っているのかな?
    形は、笠の形になっていますね。

    ・私は、和菓子,洋菓子両方好きです。

  2. 多度大社に行った事があります。お馬さんもいました。お店に入って、何かを食べたのはこのお店だったと思うのですが、何を食べたんだろう???

    私も、和菓子も洋菓子も大好きです。体重を気にしないで食べられたらいいのですが、そうは問屋が卸(許)さない(古っ‼)

    1. 食べるほど痩せられる、そんな夢のような和菓子屋洋菓子があったら、ノーベル賞ものですよね!

  3. 自然に車内から頭を下げる…
    な〜んか良いですよね。
    守り守られてるような感じがします。
    写真の「雨ごひ笠」
    最中の形がおしゃれだし「雨ごひ笠」の字体も「い」じゃなく「ひ」だったり「雨」の点々も左右1つずつ多っかったり「笠」の字も雨傘を想像させるような字体だったり。
    ん〜素敵! 絶対に手に取っちゃう(笑)

    1. 昔、毎日新聞の取材で3回ほどインドへ出かけましたが、さすがに神々の国インドでした。
      日本の八百万の神々を凌ぐ、3億3千万にも及ぶ神々が御座すとか!
      どうりでインドを東西に横断する国道でも、道の脇にある小さな祠の前を横切る、オートバイの運転手もハンドルから両手を離して、祠の神に向かって両手を合わせ通過してゆくなぁ~んて光景を、日常茶飯事目にしたものでした!

      1. インドには3億3千万もの神々がいるの⁈
        神と共に生きてるって感じ。
        でも 運転手さん!両手を離さないで〜。
        神様が見てるでしょ!(笑)

        1. ヒンドゥーの神々だそうですが、その中でも9番目の神様が、ぼくたちにも親しみのあるお釈迦様だとか!
          だからヒンドゥー教徒たちは、ぼくら仏教徒の日本人を、ヒンドゥーの9番目の神の信者だという感じで、包容力溢れる態度で接してくれるんですよ!

  4. 多度大社は1度だけ、伺った事がありますが、丸繁さんにお邪魔しなかったとは全く、迂闊でした。
    「雨ごひ笠」風情があって美味しそうですね。どんなお味なのでしょうか。
    おひとりで何役もこなされて、現実には本当に大変だったと思いますが、家業を守るという志は、素晴らしいものですね。こうした、お話を聞いてからだと
    また余計に頂きたくなりました。

    1. 職人さんが捻り出す商品には、それぞれ暖簾の歴史とかを背負った、深みのある味わいがあるものですよねぇ。

  5. 多度大社
    名前は有名ですから、聞いた事があります!
    しかし、残念ながら行った事がありません
    お千代保さんへ行って、串カツ食べて、漬物買って
    多度大社へGoo!
    新型コロナウイルスが終息したら行きたいと思います。
    皆さん、もう少しの我慢!
    ここまで頑張ったんだからねぇ!

    1. そうそう、コロナと共存する覚悟で、新型生活様式とやらで乗り越えねば!

  6. お!ここはなんか行ったコトあるかも!でもこうして紹介されるとまた行ってみたくなりますね~!

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