「天職一芸~あの日のPoem 102」

今日の「天職人」は、三重県御薗(みその)村の「手筒花火師」。(平成十六年七月十日時点)

夏の夜焦がす花火でも いつか枝垂(しだ)れて消えるもの 土手に寝転ぶ君の声 目尻を伝う花火の雫(しずく)    闇を切り裂き天翔(あまか)けて 見事に華を咲かせ散る  儚き定め花火にも 心震える君を想えば

三重県御薗村に代々続く、手筒花火師の山崎力さんを訪ねた。

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「手筒花火を自分で作って、それを打ち上げてこそ、一人前の男やさ」。力さんは、葡萄棚の下で缶ビールを煽った。両親と兄・姉夫婦を交え、焼肉を肴に酒宴の真っ最中である。

御薗村には三百年ほど昔から、お盆に先祖を供養する念仏踊りと、送り火としての手筒花火が今も伝わり続けている。

この村に生を受け、この村を愛して育った力さんは、代々村の手筒花火を受継ぐ大念仏羯鼓(かんこ)保存会に十五歳の年に入会。父も兄もそうであった様に、手筒花火師を目指した。

とはいえ、職人であっても商人ではない。年に一度の念仏踊りの一晩のためだけに、秘伝の手筒作りを学んだ。 「事故が起こったらあかん。せやで自分で花火を作るんやさ。でも何時の間にか、その危なさに、みな取り憑かれてもうてな」。力さんは空の手筒を取り上げた。

手筒の太さは、二寸半(約七.五七㎝)。竹(現在は紙管)筒の底部には新聞紙を詰め込み、跳(は)ねと呼ばれる爆発力の強い黒色火薬を詰め、その上から先祖伝来の火薬を叩いて詰め込む。この叩き入れる時の感覚は、すべてが永年の勘だより。最後に噴出し穴の開いた木栓で塞げば完了。一晩のために二百本強の手筒が仕込まれる。

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打ち上げ時には、手筒と自分の腕をチェーンでつなぎ、ゴー、シューと音を立て火花の吹き上がる手筒を、両手でしっかと掲げ持つ。「打ち上げの最後んなあ、物凄い音を立てて筒の底が抜けたるんやけど、それが黒色火薬に燃え移って爆発する時の音なんやさ」。力さんは身振り手振りを交え、夢中で手筒の魅力を語った。 「わしの作ったんは、吹き上げる勢いも違(ちご)てな、音も高(た)こうてええ音さすんやさ」。傍らに寄り添う妻が、頼もしそうに力さんを見つめた。思わず奥さんに話かけようとすると、力さんが遮った。

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「これなあ、まだ嫁とちゃうんやさ。わし前に一度離婚してなあ、今度これと一緒んなるんやさ。それで家族に紹介しよ思て。なあ皆そういうこっちゃで、一つ宜しゅう頼むわな」。何の衒(てら)いも無く力さんはそう告げ、ビールを飲み干した。

取材の席は一転、大家族の祝宴に。男たちは酔うほどに、手筒の武勇伝を、何とも誇らしげに語り続けた。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「「天職一芸~あの日のPoem 102」」への8件のフィードバック

  1. おはようございます。
    村の手筒花火師のお話ですね。ブログを、見て勉強になりますね。
    手筒花火は、ひとつひとつ手間がかかるのですね。手作りなのですね。
    私は、手筒花火を、実際に見た事が、有りません。 手筒花火と言えば三河の手筒花火が、出て来ました。

  2. おはようございます。
    思い出しました。 花火は、TVで見た事が、有ります。 花火綺麗でした。
    実際に見るのとTVで見るのとは、音,迫力が、違うのでしょうね。
    私は、積極的に花火大会を、見に行きません。

  3. 実際に手筒花火を見た事があります。それはそれは、迫力満点で思わず「わあ〜!」って声をあげてしまいました。
    『ザ・男』って感じ•̀.̫•́✧

    1. ぼくも高山で宮川の手筒を見たことがありますが、勇壮なものですよねぇ。
      ぼくは打ち上げ花火の大輪よりも、手筒の方が好きなようです。

  4. 手筒花火で送り火…
    なんだか壮大な感謝が込められてるよう。そして 残された者がまた一歩踏み出す力にもなってるんじゃないかなぁ〜。
    手筒花火は一瞬で散らないから 見惚れると同時に想いを託すことも出来るし 感情に浸ることも出来る気がします。
    先日 従兄弟を亡くしたばかりだから 感慨に耽けってしまいました。

    1. そもそも花火には、そんな黄泉の世界へのメッセージ的なものが込められている気もいたしますねぇ。

  5. 私は、残念ながら「手筒花火」見た事がありません!
    なごやンさんが言われるように
    確かに「ザ・男」ですねぇ!
    私なんぞぉ!「ザ・ヘタレ&ビビり」絶対負けません!
    せいぜい「線香花火」が、お似合いかも?
    花火と言えば「夏花火」これが一番⤴
    たまには、オカダさんに「よ・い・しょ」

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