毎日新聞「くりぱる」2004.7.25特集掲載①

素描(スケッチ)漫遊(まんゆう)(たん)

「日本一やかましい喧嘩祭」

「この町で生まれたもんは、みな母親のお(なか)ん中で、ゴンチキチンの(かね)の音聞いて育つんやで、喧嘩祭の血が(たぎ)っとんやさ」。

写真は参考

三重県桑名市生まれのM.Oさん(46)。

日本一やかましい喧嘩祭として、全国にその名を()せる「石取祭(いしどりまつり)」。

だが意外にも、優男(やさおとこ)の風貌。

「本当に?」と、思わず疑ってしまった。

今年の石取祭は、7月31日から。

幕開けは、提灯に火が灯る夕刻。

写真は参考

法被(はっぴ)姿の少年たちが辻々を練りながら、歌い上げる“お勝っつあんは うちにか 蟹が桃はさんで はさみちぎって ほったった ほったった” の歌に始まる。

夜も(ふけ)ると、今度は法被姿の青年たちが、口々に「お勝っつあん」を歌い上げながら、祭の無事を祈って徒党を組んで、参拝のため春日神社へと練り込んでゆく。

浴びるほど(あお)った酒で酔いも回り、一触即発状態の緊張感が参道を(うず)め尽くす。

各町々の祭車(さいしゃ)の周りでは、午前0時の叩出(たたきだ)しの瞬間を、今や遅しと待ち構える。

叩出しの合図は、春日神社の神官が(みことのり)を上げ、神楽太鼓が鳴り渡ると、石取祭青年連盟の会長が、赤提灯を振り上げ祭の始まりを告げる。

神社から4㌔も離れた町では、辻々に伝令を配し、次から次へと送り提灯で叩出しの灯りを町へと送る。

(ねじ)り鉢巻き、紺木綿の股引(ももひき)と、腹当てに揃いの半纏(はんてん)地下足袋(ぢかたび)姿。

ビンロウジ(鉦を叩くT字型の金属製の(ばち))で鉦に刻む五拍子・七拍子のゴンチキチンが、一斉に町中に響き始める。

男は勇を、女は艶姿(あですがた)を競い、年に一度の(やかま)しいハレの日が幕を落す。

誰よりも祭を愛するOさんは、ゴンチキチンの喧噪(けんそう)(むせ)(かえ)渦中(かちゅう)に、生後1ヶ月にも満たない赤子の長男を連れ出したほど。

それから13年、赤子も今では立派に少年会の一員として、ビンロウジを巧みに操る。

「戦前は臨時列車が出るほどやったんさ。今しも、この奇祭を一目見ようゆうて、全国から10万人の人らがおいでるんやでな」。

8月1日、夕刻6時30分。

いよいよ祭のクライマックスが訪れる。

年に一度のこの日のために磨き上げられ、豪華絢爛さを競い合う神殿を模した三輪の祭車が、春日神社の参道目掛け町々から繰り出す。

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参道に連なる40台に及ぶ祭車の行列は2㌔とも。

迂闊(うかつ)に祭車に近付くと祭男とみなされ、ビンロウジで殴りあうこともあるといわれる、喧嘩祭の渦中へと引き()り込まれる。ご用心、ご用心。

「一年祭のために、頑張って働くんやでな。普段は質素に暮らしよって、石取でパーアッと使こたるんさ。それがこの町に生きるもんの誇りなんやさ」。

これだけ自分たちの町に伝わる祭と伝統を、情熱的な口調で誇らしげに語る男をぼくは知らない。

「太鼓と鉦の音があれば、桑名の人らは嬉しいんやでさ」。

写真は参考

喧嘩祭と称されるほど、物騒で血の気の多い石取祭。

何とも不似合いな優男のOさんだが、桑名の夏の夜を焦がす祭の自慢話は、まだまだ終わりそうにない。

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投稿者: okadaminoru

1957年名古屋市生まれ。名古屋在住。 岐阜県飛騨市観光プロモーション大使、しがない物書き、時代遅れのシンガーソングライター。趣味は、冷蔵庫の残り物で編み出す、究極のエコ「残り物クッキング」。 <著書> 「カカポのてがみ(毎日新聞社刊)」「百人の天職一芸(風媒社刊)」「東海の天職一芸(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸2(ゆいぽおと刊)」「東海の天職一芸3(ゆいぽおと刊)」「長良川鉄道ゆるり旅(ゆいぽおと刊)」

「毎日新聞「くりぱる」2004.7.25特集掲載①」への4件のフィードバック

  1. 祭りと言えば・・
    2022年 4月2・3日 岐阜道三祭りが2年振りに開催されるそうです。
    岐阜にもこんなに沢山の人が居るんだ ❢
    と、思えるくらい人で溢れかえる、柳ケ瀬にも皆さん足を運んで・・
    束の間だけど、柳ケ瀬にも活気が戻る ❕
    きっと、色んな催し物するから楽しいだろうねぇ ❢
    しっかりと感染対策して、ふらりと行ってみようかなぁ?
    オカダさんも家ばかりに居ないで
    たまには第二の故郷 岐阜へ来たら・・
    歓迎するよぉ⤴

  2. 以前は『名古屋まつり』は名古屋市立の学校はお休みでしたよねぇ。ただそれだけで特別って感じで嬉しかったなぁ⤴️

    1. 花電車を見に市電の路線までお父ちゃんと出掛けたものです。
      懐かしい!

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